1930年代は、いわばジャズギターの黎明期である。
この時期のギターは、楽団やグループの中でリズムを刻むのが主な役割であり、ソロをメインに聴かせる人はほとんどいなかった。
エレクトリックギターはまだ登場したばかりで音も小さかったこともあって、音がでかくて派手なホーンなどに比べれば存在感は薄かったのだ。
それでも、ジャズギターの開祖ともいうべきレジェントたちが活躍しはじめていたのは確かで、以下に紹介するのは、30年代に録音を残している代表的なギタリストたちだ。
まだLPレコードのない時代だから、いま入手できるのは後年編集されたコンピ盤が中心になるが、当時の演奏を聞くことができる。
■エディ・ラング(Eddie Lang)
真っ先に名前を挙げるべきなのは、エディ・ラング(Eddie Lang:1902-33)だろう。
リズム楽器としての役割を超えて、メロディックなラインや高度なハーモニーを駆使。
ポール・ホワイトマン・オーケストラのメンバーとして活躍する一方、ビング・クロスビー、ルイ・アームストロング、ベッシー・スミスのサポートメンバーとしても重用された。
今で言うところのファーストコールのスタジオミュージシャンでもあったのだ。
31歳という若さで他界してしまったため、残された作品は決して多くはないが、このコンピ盤は彼の演奏を中心に編まれている。
■フレディ・グリーン(Freddie Green)
この時代の、楽団所属のリズムギターの最高峰というと、カウント・ベイシー楽団のフレディ・グリーン(Freddie Green:1911-87)である。
1937年に楽団に加入して87年に他界するまでの約50年間ものあいだ、正確無比なリズムと、ベースと巧みに調和するコードワークで、カウント・ベイシーのサウンドを支え続けた。
楽団でソロをとることはほぼなく、リーダー作もほとんどないが、職人気質のリズムギターのレジェンドとして、その評価は高い。
カウント・ベイシーのこのアルバムで1930年代の演奏を聴くことができる。
■ジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt)
リズムギターが主体であったこの時代に、アドリブソロで圧倒的なテクシックを示した天才がジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt:1910-1953)である。
ベルギー生まれのロマ(ジプシー)系のギタリストで、主にフランスで活躍。
幼少期の火災事故で左指にハンデを負いながら、独創的なフィンガリングとボイシングでこれを克服し、アメリカのジャズとは異なるロマ音楽とスウィングジャズを融合させた独自の音楽性で人気を集めた。
彼からの影響、リスペクトを示すギタリストは、ジャズのみならず、ロックやフラメンコのギタリストにも数多い。
このコンピ盤で、彼の1930年代の演奏を聴くことができる。


